永遠はミモザの香り・婚礼2

「メイサ、待たせたね」
「お父さま」
 わたくしが落ち着きを取り戻した頃、お父さまが迎えにやってきました。わたくしをこの部屋に案内してくれた年配の女性と、もう一人、若い女性がわたくしのドレスを見てため息をつきました。
 気持ちはとても分かります。わたくしも、どなたか別の方がこれを着ていたら同じようにため息をついたことでしょう。
 身の丈よりも長いヴェールを渡され、わたくしがそれを被ると、女性たちが整えてくれました。わたくしは手にブーケを持ってしまったので、お父さまと並んで廊下を歩くのに、ふたりがドレスとヴェールの裾を持ってくださいました。……今さらですが、いくら婚礼衣装とはいえ、なんて機能性を無視したドレスなんでしょう。
 しばらく板ぶきの廊下を歩いていると、しだいにわたくしたち以外にも人の気配が感じられるようになって、床は板から高価そうな絨毯へと変わりました。まもなく、吹き抜けになったホールへと出てお父さまが歩みを止めました。どうやら、目的地のようです。見ると、普通の倍以上は大きくてとりどりの色硝子がはめ込まれた扉がすぐそこにありました。これが大聖堂の入り口なのでしょう。
 わたくしが着ているドレスとヴェールの裾を持ってくださっていた女性たちが、最後の仕上げと言わんばかりに整えてくださり、長く幾重にもなったヴェールがおろされました。これでほとんど周りが見えません。女性ふたりは最後に「本日はおめでとうございます」とにこやかに言って立ち去ってゆかれました。その振る舞いは、修道女ではなく、どこぞのお屋敷で働いている方々なのでしょう。
 わたくしとお父さまは腕を組んで、その扉の前に立ちました。あとは中の支度が整えば、内から扉が開かれて、歩き出すだけです。

「メイサ」
「はい」
 扉が開くのを待っていると名を呼ばれたので、返事をして見上げると、お父さまは目を細くしたようでした。
「ルファルド様はな、たいそう真面目な方だ」
「はい」
 婚約してから、何度も聞いています。けれどお父さまが珍しくわたくしの前で神妙な様子をしているので、わたくしは大人しく相槌だけを打つことにしました。
「早くにご両親を亡くされ、借金まみれのコルヒドレ家を立て直そうとしている。ご苦労をなさっているせいか、年よりもずっと老成していてな。その……見た目も少々、年かさに見える」
「……」

 お父さまがルファルド様の外見に言及したのは、それが初めてでした。
 実をいえば、わたくしはルファルド様の外見について、全くと言っていいほど何も知らなかったのです。
 お父さまの断片的な話しか聞いていないので、すべてを理解しているわけではありませんが、どうやらこの婚姻話はお父さまからコルヒドレ家へと働きかけたもののようでした。コルヒドレ家では姿絵などを用意する間もなく話が決まり、話が決まると式ももう目前だったので、姿絵はこのまま用意しなくても良いだろうという話になったようなのです。
 そういうわけで、話が決まってとりあえず「姿絵はないのですか?」と聞いたわたくしに、お父さまは「用意できても式目前になるのだからなくともいいだろう」と答えたのでした。
 まったく、乙女心を理解できていないお父さまです。
 確かに、わたくしはお父さまに「この話を進めて良いな」と念押しされて、「はい」と答えました。女王陛下にも報告済みですっかり外堀が埋められた状態でそんなことを言われても、「いいえ」と言えるわけがないじゃないですか!と罵りたかったのはとりあえず置いておいて、それでも納得はしていたのです。状況を聞く限り悪くないお話なのはわたくしにも理解できましたし、何より外ではそれなりに優秀らしいくせにわたくしの前ではただの情けない父親なお父さまがお決めになったのですから、間違いはないでしょう。
 それでも。それでもです。
 結婚する相手がどんなお顔なのか、事前に見たいと思うのが乙女心というものではありませんか!
 お父さまの話を聞く限り、ルファルド様を形容するのに「美男子」という言葉は一度も出てきたことがありません。それどころか、外見のお話自体、まったくと言っていいほど出てこないのです。せいぜい、わたくしが問いつめた時に「髪は黒いな」と言っていたくらいです。黒い髪の方なんてこの国には五万とおりますから、それだけでは何の想像もできません。
 おそらく、ルファルド様のお顔の様子は、あまりかんばしくないのでしょう。姿絵も、時間がないというのは言いわけで、本当はあえて用意しなかったのかもしれません。
 これから何十年も共に生きてゆくのです。性格の相性が何よりも大切なのはよくよく分かっていますが、その点だけは残念でした。わたくしだって十八の乙女(ほほほ)です。十人並みな自分の容姿は置いておいて、少しくらいは夢を見たいお年頃なのです。

「おまえは気づいていたかもしれないが、その……ルファルド様はな、美男ではない」
「そうでしょうね」
 ですから案の定、今さらそう白状したお父さまに、わたくしは冷やかにひとこと相槌を打って前を向きました。
 お父さまはいつもわたくしが怒っている時のように、なんとも形容しがたい、困ったような怯えているようなお顔をしているのでしょう。「あー……」なんて困惑したようなお声を出されても無駄です。わたくし、そんなお父さまに助け船を出すほど優しくありません。
 お父さまはわざとらしく咳ばらいをして言葉を継ぎました。
「その、な。見た目はその、少々、恐ろしげな方なのだ」
「……」
 恐ろしげ。
 その言葉に、わたくしが想像したのはいかつい強面のお兄さんです。先ほど年かさに見えると言っていましたから、おじさまかもしれません。わたくしに黙っていたくらいですから、少々、というのはおそらくお父さまの現実見たくないという心の現れでしょう。
 わたくしが冷たい視線を向けると、見えずとも分かったのでしょう。お父さまは力なく微笑んだようでした。
「しかしな、あれほど誠実な方はいない」
「……」
「本当だぞ。貧乏で顔は怖いが、本当に良い方なのだ。でなくてどうしておまえをくれてやるものか」
「そのくらい分かっていますわ」
 むきになって言い募るお父さまに、ため息交じりに答えると、お父さまはわたくしが許したと思ったらしくあからさまに安堵した気配がありました。まったく、どちらが子どもなのでしょう。
 けれど次の瞬間、お父さまはお父さまらしく威厳を取り戻して、わたくしをじっと見つめたようでした。
「ルファルド様はな、必ずやおまえを大切にしてくれるだろう。もちろん私は金銭的にルファルド様を援助することになってはいるがな、そんなことに関係なくおまえを慈しんでくださる。そういう方だ」
「……はい」
「あとはおまえしだいだ。あのお顔も慣れれば優しげに見えなくもない。おまえが臆することなく敬意をもってルファルド様と接すれば、きっと幸せになれるだろう。幸せは自分でつかめ」
 ここまで言われるルファルド様は、そうとう怖いお顔のようです。
 それにしても、逃げ出せないように式の直前にこんなことを言うなんて、わたくしを何だと思っているのでしょう。
「言われずとも、そうさせていただきます」
 ですから腹立たしさも手伝って力強くそう言うと、お父さまは少しだけ声をこぼして笑いました。こんな子どもっぽいお父さまをひとり領地に残しておくのは何とも心もとない気分です。
 どうしたものかと思っていると、重たそうな音を立てて、目の前の扉が開いたのでした。

 鳴り響く荘厳な音楽の中、深紅の毛あしの長い絨毯の上をお父さまと並んで歩きました。
 わたくしはヴェールをかぶっているので、周りがよく見えないのですが、おそらくずらりと人が並んでいるのでしょう。無数の視線を感じます。
 慣れないドレスと人の視線、それに視界を極度にさえぎるヴェールに足元がおぼつかなくて、自然うつむきがちに歩くことになりました。一歩、また一歩とゆっくり歩いているせいもあるでしょうが、さすがは王都の大聖堂。祭壇までの遠いこと。
 それでもようやくあと少しというところまでやってきて、ふと好奇心にかられ顔をあげてみると、祭壇の前には背の高い人影がありました。
 我が夫君たるルファルド様。ヴェールに視界をさえぎられているので、思い切り目をこらしてみても怖いと評判のお顔はよく見えません。ただ、いかついごつごつとした感じを想像していたのですが、お身体はどちらかというと細身なようですらりとしているご様子です。
 ヴェール越しにお顔を拝見するのは諦めて、またしばらくうつむきがちに歩いていると、ようやくその隣にたどりつきました。
 腕を組んでいたお父さまから離れて、ルファルド様の隣に立ちます。祭壇に向き直り顔をあげると、降り注ぐ色とりどりの光に、わたくしは目を細くしました。

 司祭様の低く、荘厳なお声が朗々と神のお言葉を読み上げ、誓文をつむぎました。
「ルファルド・コルヒドレ。汝はメイサ・ベラトリックを妻とし、病める時も健やかなる時も、その苦を共にし喜びを分かち、助け愛し合うことをルグダーナとアリアロンの神に誓いますか」
「誓います」
 司祭様に応えたその低いお声は深く、静かで落ち着いていました。これがルファルド様のお声なのです。もっと聞いてみたいところでしたが、式は進んでゆきます。
 その後の、指輪を交換するのに触れたルファルド様の手はとても大きくて、手袋ごしにも骨ばっていました。けれどわたくしの手をとるその様子はまるで壊れものを扱うように丁寧で、ああ、あの字はこの手でお書きになったのだなぁと訳もなく実感してしまいました。

「それでは、誓いの口づけを」
 司祭様の声に、わたくしは向かいあったルファルド様の前に心もち腰を折りました。ルファルド様の白い手袋をした指が、わたくしの被ったヴェールの裾をつかみます。
 いよいよ、ルファルド様とご対面です。
 どんなに怖いお顔でもどんと来いです、と心の中でつぶやきました。
 高鳴る心臓の音。降り注ぐ光。
 ゆっくりと、わたくしの視界が開けてゆきます。やがて、その白手袋の手が上げきったヴェールの形をそっと整えて、一度わたくしから離れてから、わたくしは意を決して背筋を伸ばし、伏せていたまぶたを上げました。

 初めに目に入ったのはその服装です。
 わたくしが着ている淡い金色の細かい刺繍がされたドレスとそろいなのでしょう。同じ文様がその胸ポケットあたりに施されています。
 わたくしよりもかなり背が高いらしく、ちょうどその辺りがわたくしの視線と同じ高さなのです。ゆっくりと顔を上げてゆくと、礼服の詰襟にもおそろいの文様が刺繍されています。そして、さらにその上。
 細いあご。青白い肌。薄い唇は色も淡く、鼻梁もほっそりとしています。切れ長の目と、瞳は雪雲のような灰色。黒檀のように真っ黒な髪。
 そのどれもが完璧に整っているのに。整っているからこそ。
 やせこけた頬。ほとんど黒に見えるほど濃い、目の下のくま。やせすぎているせいか、その眼窩も落ちくぼんでいるように見えて。
 何もかも。

 ――禍々しい。

「……っ」
 わたくしは息をのみました。
 ルファルド様は、わたくしの想像とは全く別の方向に怖いお顔をしています。
 例えるなら悪魔とか……そう、この国に伝わる死神・クロウクルの姿に近いかもしれません。
 けれど、わたくしが息をのんだのはそのお顔が怖かったから、というわけではありませんでした。

 わたくしは、そのお顔を――確かに知っていたのです。

「いかがなさいましたか」
 そう声がかけられて、わたくしを取り囲んでいた貴婦人たちははっとしたように顔を上げました。
 二年前、女王陛下の戴冠祝いの夜会。
 踊り疲れて庭園へ逃げ出し、しゃがみこんでいたところを囲まれたので、まだ状況もわからずそのままぽかんとしていたわたくしには、貴婦人たちのドレスでその人影がよく見えませんでした。
 けれど。
「きゃああぁあああっっ」
「ひ、ひぃ……ッ」
「いやあぁああっ」
 貴婦人方が口々に悲鳴を上げられその場を足早に後にされたので、わたくしはますますぽかんとしてしまいました。
 何が起こったのか分からなくて、遠ざかっていくその後ろ姿を目で追って。何が起こったのか順を追って考えて、ああ先ほどの貴婦人方は「身の程をわきまえろ」と言いたかったのかとようやく理解した頃でした。

「……大丈夫ですか」
 先ほど聞こえた声がして、わたくしは貴婦人方が逃げたのとは逆の方向に顔を向けました。
 大広間のまばゆいばかりの灯りも、庭園までは届きません。月明かりが頼りの薄暗い茂み。
 立っていたのは、すらりと背の高い男性でした。暗くてはっきりと分からないのに、それでも顔色が悪すぎてものすごく不気味な男の人。
 反射的に身がすくみました。けれど、よく見るとその人は心配そうにわたくしの様子をうかがっていたのです。
 ああ、この人はわたくしを助けてくださったのか、と。気づけばほっと息をついていました。
「ありがとうございます」
 わたくしがお礼を言うと、その方は小さく「いえ」と言って、それからじっとわたくしの様子を見ていました。何かおかしなことでもしたのでしょうか、あまりにもじっと見られているので首をかしげると、その方はまた静かなお声で言いました。
「ここは暗い。広間に、お戻りになった方が良いでしょう」
 どうやら、心配してくださっているようでした。しかしこれ以上、貴公子の靴を踏まないか気にしながらダンスを踊るのは、わたくしには拷問のように感じられたのです。
「あの……あまり、戻りたくないのです」
 答えた声は、我ながらたいそう情けないものでした。その様子を哀れだと思われたのでしょうか。
「……私も、ここに居て良いですか?」
 その方は、ぽつりとそうおっしゃったのでした。
 驚いたわたくしが顔を上げると、困ったような顔をして、その方は言葉を継ぎました。
「ダンスが苦手なのです。会場にいると、踊らねばなりませんから」
 言い訳のように聞こえたのは、きっとそれほど間違いではなかったのでしょう。
 後になって気づきましたが、いくら王宮の庭園とはいえ、灯りも満足に届かない暗がりで女ひとりなど、危ないことこの上ありません。おそらく、その方は戻りたくないと言ったわたくしを気づかってくださったのでしょう。
 けれど、その時のわたくしはそこまで気づくことができずに、ただその言い訳じみた言葉に惹かれたのでした。
「わたくしも、ダンスは苦手です。いえ、踊るのは好きなのですけれど。上手くないので、あの広間で踊るのはとても緊張してしまって、失敗ばかりで。だから逃げてきましたの」
「分かります。緊張すると、余計にぎこちなくなってしまう」
「ええ。お仲間がいて嬉しいですわ」
 おとぎ話の中のようなあの大広間の人々とは違って、同じ場所にいる人のように感じられて嬉しかったのです。安心して笑うと、その方も初めて少しだけ表情を和らげてくださいました。

 王城からかすかに聞こえてくる音楽は、いつの間にかゆったりとしたものに変わっていました。
「……お嫌いでないのなら、一曲、お相手願えませんか?」
 わたくしのすぐ近くまでやってきたその方は、ふと、思い立ったようにそう言いました。
「おいやではありませんの?」
「私も、踊るのは嫌いではありません」
 今度の言葉は、その時のわたくしにもすぐに気づかいなのだと分かりました。わたくしが「踊るのは好き」と言ったからそう言ってくださったのでしょう。
 その気づかいが、嬉しかったのです。
「喜んで」
 わたくしが答えると、その方は手を差し伸べてくださいました。白い手袋の大きな手。自分の手をのせると、その大きな手はわたくしの手をそっと包みこむようにしてわたくしを立たせました。抱きよせられ、わたくしはそのお顔を初めてまじまじと見たのです。
 年の頃は三十前後でしょうか。月明りすら吸収してしまいそうな真っ黒な髪。対照的な青白い肌。頬はこけ、目の下には濃いくまができていて、ひどく不健康そうでしたがぞっとするほど整った、綺麗な顔立ちをしていました。これで普通に健康的だったら、きっととても美男子さんなのでしょう。
 あまりじろじろと見ては失礼ですし、立ちあがってもその方はとても背が高くて、あまり見上げていると首が痛くなりそうでしたから、わたくしはすぐに視線を落としました。
 ちょうど、新しい曲が広間の方からかすかに聞こえてきました。
 その方は、言葉通りダンスがとてもお上手というわけではないようでした。けれどわたくしの方はもっと下手ですから、安心してその日にお相手したどの方よりも楽しく踊ることができました。
 踊りながら、わたくしは悪魔の王様のお話を思い出していました。この国ではほとんど知られていないようですが、むかし、わたくしが子どもの頃、大好きだったおとぎ話です。恐ろしいお顔をした、けれどとても優しい悪魔の王様が人間たちと仲良くしようと頑張るお話で、わたくしはその王様が大好きだったのです。
 ちらりと見上げると、優しげな灰色の瞳がわたくしを見つめていました。急にどきどきとして、ごまかすように笑うと、その方も笑ってくださいました。

 あの日、ひどく疲れてそれでも悪くない一日だったと思えたのは、あの方がいたからです。一曲お相手した後、広間のすぐ近くまで送ってくださって、そこであの方はどなたかに呼ばれてそのままお別れしたので、お名前をききそびれてしまいましたが、そうでなければ何かお礼をしたいところでした。

 その、方が。
 思い切り目の前にいるわけです。
 なにぶん、二年も前に一度お会いしたきりですから細部は覚えておりませんが、これほど強烈な印象を与える方が別人とも思えません。
 わたくしは「あのときの」という言葉を必死にのみ込んで、呆然とその方を、いえルファルド様を見上げました。
 落ち着いた様子のルファルド様は、相変わらずとてもお綺麗な顔立ちが顔色その他もろもろで台無しな、悪魔の王様のようなお顔です。三十前後、という印象も変わりません。まさか、実年齢はわたくしと三つしか違わなかったなんて! 二十一、ということは二年前のあのときは十九だったのですかルファルド様!
 人目がなければ頭をかかえて色々なことに思い切り驚きたいところです。
 わたくしが一人、心の中であわあわとしていると、ルファルド様の両手が遠慮がちにわたくしの肩に添えられました。

 …………………………。

 驚きすぎて、本気で忘れていました。
 思い切り結婚式の最中です。しかもこれから誓いの口づけです。
 ……今までそれほどでもなかったのに、急に恥ずかしくなってきました。心臓の音が耳の中で鳴り響いて、うるさいほどです。
 あの時と同じように、優しげな灰色の瞳がすっと細くなりました。心もち、わたくしの肩にそえられた両手に力がこもったような気がします。
 そして、ゆっくりと、そのお顔が近づいてきて。

 苦しいほどに高鳴る心臓。
 じんわりと熱のしみこむ肩。
 時の流れが急にゆるやかになってしまったみたいに、世界はゆっくりとして進みません。

 手元のミモザが香ったような気がしました。

 目の前にはルファルド様。
 あの日、優しくしてくれた人。
 これからずっと、一緒に生きてゆく人。

 ああ、自分はきっとこの方を愛することになる、と。
 確信して。
 ――わたくしはそっと、目を閉じたのでした。

(C) まの 2009